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「昼下がりのデザート」 by山猫母

土佐人にとって、文旦はおいしい冬のめぐみである。

例えば夕食のあと、家族団らんのこたつの上に、母親が文旦を置く。
文旦の外皮は分厚いので、皮を剥ぐのは大人の仕事だ。
子どもは今日学校であったことを話しながら、文旦の皮を剥ぐ母親の手元をじっと見ている。
そして小房が取り分けられると、子どもは話すのをやめ、指の先に力を入れて内皮をむき始める。指にあかぎれやさかむけがあると非常にしみる。
しかし、そんなことにはかまっていられない。
酸っぱくてプチプチした果実を一刻もはやく口に放り込みたい。
文旦は、そういう果物である。

弁当が終わった机の上に、ナップサックから大きな文旦をまるまるひとつ出した男子がいた。
いくら馴染みの果物とはいえ、高校の教室には少し場違いの様で、弁当箱を片付けていた友人たちの手は止まり、みな文旦を凝視した。
しかし、本人はちっとも気にしておらず、筆箱から取り出したカッターナイフの刃先で文旦の赤道をクルクルとなぞると、鼻歌交じりでその皮をはぎ始めた。
力のある指先にねじ込まれた外皮が「ブツツ・・」と低い音を立てて霧状のエキスを放出。
すると、今まで教室内を取り巻いていたミートボールや焼きそばの匂いが、一瞬にして爽やかな香りにとって代わり、気がつくと教室内にいた20人ほどのクラスメートが全員鼻をヒクヒクさせながら、文旦を剥く男子の周りに集まっていた。

文旦は、むくときからすでにおいしい果物である。

やがて、お椀型に外された外皮の上に、内皮がついたままの小房が乗せられた。と同時に、いくつもの手が伸びてきて、皮をむいた功労者が手についたエキスをティッシュで拭き終わったときにはもう、食べあとの内皮だけが山をつくっていた。
ほんとうに一瞬のできごとだった。
内皮の山を見てキョトンとする持ち主。
そんな彼を見て、「さすがに悪かったな・・」という顔のクラスメートたち。
すると、人垣の中からおずおずと手が伸びてきて、食べかけのちいさな文旦のかけらが彼に手渡された。一瞬の緊張のあと、彼がポイっと口に放り込み、ニッと笑った。
すると級友たちはおたがいを見回し、教室内は和やかな笑いで包まれた。
文旦は、だれかとわけるともっとおいしい果物である。

級友たちがもふたたび彼の方を向いたとき、例のナップサックから二個目の文旦が現れた。
文旦のおいしさは、エンドレスである。

土佐文旦(ぶんたん)